5.くわこさんとの出会い

桑の葉を取りに行く遠足の毎日の中で、かいこさんとよく似た虫

に出会いました。

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「かいこさんと にてる!」

「でも、ちゃいろいなあ... なんだろう????」

そこで、『カイコの絵本』という本で調べてみると、

その正体は、くわこという虫でした。

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くわこさんとかいこさんの違い、そしてかいこさんの運命に徐々に気付いていきます。

くわこさんは、野生で生きていけて、空も飛べて、かいこさんは人間が作り出した虫、そして空も飛べずに死んでしまう…ということも知りました。

 「かいこさんって ガになるけど とべないの?」

図鑑には書いてあるけれど、半信半疑な仲間たちでした。

この野生のくわこさんとの出逢いは、今後の子どもたちの生活に繋がる、とても大きいものでした。

6.かいこさんの おうち作り

 ある日、かいこさんの様子がおかしくなりました。桑の葉を食べなくなり、体が少し黄色くなり、頭をふりあげ、くるくるとまわし、糸を吐き出し、まゆをつくり始めたのです!

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かいこさんがまゆをつくる姿は本当に神秘的でした。

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実は、このおうちも、かいこさんの まゆのおうちを作ろうと、厚紙とはさみで枠を作り、のこぎりや とんかちを使って大工仕事にもチャレンジして、自分たちで作りました。

7.大工仕事に挑戦!

ある日、大工仕事の職人さんを園にお呼びして、実際に教えてもらう経験をしました。

子どもたちの目の輝きは、より一層増していきました。

8.話し合いの日々

この後のかいこさんがどうなるかを知らない子どもたちと、かがくのともの『かいこ』という絵本を読みました。

せいしこうじょうのかたは、まゆをにてから、いとをとります。

この部分を読んだときに、頭にきた方達がたくさんいました。

「煮る」という言葉に反応して、怒ってしまったのです。

「 えー?!せいしこうじょうのかたたち、あたまわるいんじゃないの?おかしいよ!!!!」

そうして、これからのかいこさんをどうするか、という話し合いの日々が始まりました。

とにかく白熱した話し合いでした。

「にちゃうなんてかわいそう」

「ぐつぐつにちゃだめだよ。なかにいるんだから。」

「ゆうこせんせいにだいじにしてね......っていわれたのに、たいせつにできなくなっちゃうよ。」

「だいなしだ。」

「しんじゃったらいやだよ。」

「でも・・・くわこさんはそらをとべるけど、かいこさんはとべないんだよね・・・」

 「じぶんのちからをふりしぼって、がんばって、まゆをつくったのに、どうしてにるひつようがあるんだろう?」

「いとをとるためだよ!」

「まゆがだいじってことかなあ・・・。」

「でも、だったらそだてなきゃよかったよ。」

「かわいくて、だいすきだから、おうたもつくったのに。」

実は、小さなたまごから育て、どんどん大きく育っていくかいこさんといつも一緒に過ごしているなかで、大好きだからこそ、歌をつくりたいという気持ちから、子どもたちとかいこさんのうたをつくっていたのです。

 かいこさんはこの後、まゆから最後の脱皮をしてガになることを知りました。そして、ガになっても空は飛べず、すぐに死んでしまうことも知ってしまった子どもたちは、毎日悩み苦しみました。

ずっと一緒にいたいけれど、ガになっても死んでしまう。

かいこさんのまゆから糸や真綿をもらえること、そのために人間がつくりだした虫だということも知りましたが、気持ちは追いついていけません。

 そんな時……

「かいこさんの いとをとって、たいせつに たいせつにしたら、かいこさんよろこんでくれるんじゃない?」

「いとをもらっておにんぎょうをつくったら、ほんとうに いっしょに いられるんじゃない?」

 この言葉を何日も伝え続けてくれていた仲間がいて、その気持ちが徐々にみんなの心に浸透していき、気持ちがひとつになった日が来ました。

この年齢で、13日間も続く話し合いを乗り越えることができたのは、もちろん、かいこさんへの想いが強くあること、そして何よりも、二年間心と心がぶつかり合いながら、共に過ごしてきた仲間がいるからだと、そばで一緒に生きてきた大人として、思います。

 9.かいこさん、ありがとう

翌日、まゆを初めて煮よう、という日。

まゆを耳のそばに近づけてふり、かいこさんひとりひとりに、煮てもいいか聞きました。

「 うわあ~~~!かいこさんってすごい!ありがとう!」

初めてかいこさんからもらった糸をみて、子どもたちから出た言葉は、“ありがとう”でした。

昔の方は最後まで命を大切に…という考えで、煮たあとのさなぎのかいこを食べていたことを、ある仲間がおじいさまから聞いて知っていました。

そらぐみさんも、食べたらずっと一緒にいられるかも・・・という考えが浮かび、さなぎとなってまゆから取り出したかいこさんを料理して食べました。

「おなかのなかにいる…。てとかあしになるかも?かいこさんパワーだ!!!!」

と、大好きなかいこさんと一心同体。本当に愛情たっぷりな子どもたちです。

10.かいこさんまつり

 この生活の中で、こどものともの『まゆこ』という絵本に出会いました。

まゆこという女の子が、おばあちゃんと暮らしているお家で、かいこさんを飼っています。まゆになると煮て、糸をもらって着物などをつくることを知ります。かわいそう...と思ったまゆこは、おばあちゃんから「きぬいとをつくったかいこさんにも おまつりがあってね。そのときに はねが生えて空の国にとんでいくんだよ。」というお話を聞きます。そして、まゆこは実際に、そのかいこさんのおまつりと出逢う...という話です。

かいこさんからいただいた糸や真綿でお人形や飾りづくり励んでいたなかで、この「まゆこ」という絵本が心の中にあったある方が、

「かいこさんがおそらのくにへいけるように、かいこさんまつりをしたい!まゆこみたいに。」

と伝えてくれて、そこから、かいこさんまつりの準備に勤しむ毎日でした。

そして当日。かいこさんを想い、感謝し、かいこさんのためにみんなでつくった歌を歌い、かいこさんを空の国へと送る一日となりました。

 はじめからこのような生活になるとは、だれも思っていませんでした。

子どもたちと一緒に本気でかいこさんという生き物と向き合い、心を奪われ、共に過ごす仲間たちと悩み苦しみながら、その気持ちを共有してきた毎日があって、このような生活になったのです。

5歳の子どもたちと命と本気で向き合う毎日は、過酷ともとれるかもしれません。

こんな仲間たちも、入園当初はお母さんと離れることができず、毎日わんわん泣く日々でした。

そして少しずつ、自分の「すき」なもの、人、ことを見つけて、自分で自分の居場所を模索しながら、仲間と過ごす日々を大切に積み重ねて、徐々にみんなで共有する喜びをつかんできたのです。

3年間という時間を共に過ごすことで育んだ信頼関係があって、共に乗り越えることができたのです。